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対自律神経戦略2 -自律神経の誤作動と臨床症状-

まずはこの記事のオススメの読み方

PCの方はそのままで大丈夫です。

スマホの方は画面ロックを解除して横向きにして読むのがオススメです。変な改行が減って画像も大きく表示されます。

どうもどうも

ちょーーーーー久々の新作です。

シリーズ:タケフェッショナル第12弾です。タブン

今回は自律神経についての内容になりますが、過去に大好評をいただいた対自律神経戦略 -3種類の自律神経を紐解く-の正統続編です。

なので自律神経の基礎を理解していない人にはサッパリな内容になるのでそこはご理解の上、ご購入くださいませ。

前作では自律神経の基礎内容を解説しました。

箇条書きにするとこんな内容です。

  • 自律神経は全部で3つあるよ
  • そしてそれぞれにはこんな特徴があるよ
  • 健康の指標になる不整脈があるよ
  • 自律神経と循環器(心臓)
  • 自律神経と呼吸器(肺)
  • 自律神経の理解をどう臨床に活用するか
  • 末梢神経の構造
  • 自律神経に影響を及ぼすセルフケア

言うなれば自律神経の入口の入口な内容でした。

今回の続編では次のような内容を解説します。

  • 安全/危険/脅威の認知メカニズム(ニューロセプション)
  • 凍りつきの2フェーズ
  • 防衛カスケード
  • 自律神経障害のメカニズム(病態理解)
  • 簡単な疾患理解(不安、抑うつ、境界性パーソナリティ障害、PTSD、反応生愛着障害、自閉症、過敏性腸症候群etc)

すごく簡単にまとめると

  • 脳内で起こる自律神経的反応のメカニズムと体に起こる変化
  • 抽象的な言い方のいわゆる自律神経障害の具体的理解(何が起きているのか)の解説

ということになります。

 

つまり

 

結構深い部分の話をするので、

そもそも興味がない人

自律神経の基礎が理解できていない人

脳の機能解剖になるとアレルギーが出る人

そんな人たちにはオススメできない内容になっています。

!購入前の最後の注意!
この記事の内容は正直言って知ったからと言って臨床の役に立つかは全く保証できません!
知らなくても臨床では困らないし知ったからと言って何か成せるようになるってわけでもありません。
満たされるのはあなたの知識欲だけです。
そこんとこ承知の上でご購入お願いします。

1.自律神経とコミュニケーション

1-1.他者と自分

いきなり謎のタイトルの章から始まりましたがクソ重要です。

我々哺乳類にしか備わっていない腹側迷走神経の機能は社会関与システムでした。

社会関与とはつまり他者との交流を意味します。

遊び、喧嘩、競い合い、戦争、SEXなど全て他者交流に含まれます。

お気づきかと思いますが他者交流は全てが安全とは言えません

危険な相手とは距離を取り遠ざけ、または排除するなどの対処が必要になります。

3つ自律神経の作動条件を覚えていますでしょうか?

  • 交感神経:危険な環境に身を置くと
  • 背側迷走神経:生命の危機的環境に身を置くと
  • 腹側迷走神経:安全な環境に身を置くと

それぞれに作動条件というものがありました。

 

よく交感神経優位が悪者扱いを受けますがそれは間違いです。

自律神経障害=交感神経優位

こんな認識の人もいるくらいです。(大間違いもいいとこ)

 

周囲の環境に応じて神経システムを切り替えることができなくなっていることが問題なんです。

 

そして他者は環境構成の大きな要素です。

 

さらに他者とは最も予測不能な存在です。

 

危険なのか、脅威なのか、安全なのか、全くわからないということです。

 

そうなると脳はどんな選択をすると思いますか?

脳は超合理的です。

生存戦略的にこんな選択をします。

 

とりあえず危険と想定しておこう。

 

つまり見知らぬ相手と対面した場合は交感神経が作動するということです。(=緊張)

交感神経は闘争逃走反応を起こします。

相手がどんなことをするか分からない(=危険)だからいつでも逃げられるように、いつでも反撃できるようにする。

これが交感神経です。

 

1-2.予測可能性と安全感覚

見知らぬ相手はとりあえず交感神経的に反応する。

これは理解できたかと思います。

 

ではこれが例えば気の知れた友人や家族になるとどうなるでしょうか。

大体の行動パターンがわかるし、そもそも自分にとって危険な他者ではありませんよね。

つまり安全な他者ということになるので腹側迷走神経が作動します。

 

危険な他者と安全な他者、両者の最大の違いがあり、それは「予測可能性」です。

(他者の次の行動がある程度予測でき、また予測の結果からその行動は危険度が低いと判断できること)

予測可能性が大きければ大きいほど脳は相手を味方と認識し、逆に予測可能性が小さい相手は敵と認識しやすくなります。

 

ではこの予測可能性は何をもとに測っているのか?

これは相手の仕草、表情、目線、声色などから測っています。

これらの情報材料をもとに「あ、この人は〇〇しうそうだ」と相手の行動などを予測することができるわけです。

しかもこれを無意識で行なっています。(=意識下での反応)

つまり我々にとっての平穏とは予測可能性ということです。

予測可能性の確率=安全感覚の獲得(無意識)=腹側迷走神経の活動の後押しということです。

逆に言えば、予測不可能状態の慢性化が我々にとっての最大の害でもあるということです。

そうそうXで「意識下」という言葉の理解に関してアンケートをとったら…

多くの方が勘違いしていましたね。

ま、ぼくもなんですけどね。笑

余談:テキストコミュニケーション
SNSでは度々口論になる場面を見かけますよね。
あれはテキストコミュニケーションがそうさせているのだと思っています。
テキストコミュニケーションは対面に比べると予測可能性の判断に必要な情報材料がほぼありません。
対面よりも高い緊張状態でのコミュニケーションとなりやすく、他者認識が敵>味方となりやすいのだと思います。

 

余談②:目線
白目と黒目が明確に区別できるのは人間の他にはほぼ存在せず、霊長類88種の調査結果では唯一人間だけが完全に色素細胞を描いた白い強膜をもつそうです。
他の種では強膜は茶色に着色され、虹彩も似た色をしており、おまけに半数以上が皮膚の色と似ているそうです。

=視線を隠す仕組み(野生では重要)
↔︎人間においては他者に予測可能性を提供することで互いに安全を形成する

また眼裂も人間が最も横長になっているそうです。
例外的に向社会的動物の犬は白目と黒目の区別がありますね。

 

1-3.自律神経ヒエラルキー

3つの自律神経は横並びに存在はしておらず腹側迷走神経を頂点とした機能的ヒエラルキー構造をなしています。

基本的に腹側迷走神経が作動していれば我々の体は平穏を保ち健康でいられます。

ただし、この理解が交感神経=悪の誤解を生む原因にもなります。

間違った解釈をすれば「健康のためには腹側迷走神経が作動し続けなければいけない」となりかねません。

というかそうなってる人が多いから交感神経=悪の誤った認識が広まっているのだと思います。

正確には

基本的に腹側迷走神経が作動しているのが健康には重要だが、危険が迫った際には交感神経に切り替わり、危険に対処し、危険が去れば再び腹側迷走神経に切り替わることが必要

です。

交感神経=悪ではなく、必要な時には交感神経が作動し、そうでない時には腹側迷走神経に戻ってくることができる。

これが大事なんです。

ただ、現代社会においては交感神経から腹側迷走神経に戻ってこられない人がかなりの数いるので交感神経=悪という認識になりやすいのだと思います。

またこれら3つの自律神経は単独作動するだけではなく共同作動もし、全部で5つの作動パターンがあります。

以下でそれぞれの解説をしますが、初めの3つは前回の記事をお読みの方には説明不要な内容なので割愛します。

1-4.交感神経の単独作動

作動条件:危険環境

1-5.腹側迷走神経の単独作動

作動条件:安全環境

1-6.背側迷走神経の単独作動

作動条件:危険を超える生命への脅威のある環境

1-7.交感神経と腹側迷走神経の共同作動

作動条件:安全下での闘争

交感神経による可動化と腹側迷走神経による他者交流による安全感覚が混合した状態で、スポーツでの対戦がこれに当たります。

予め全員が同意したルールにより安全が担保されているため相手が自分に危害を加えることがないと分かっています。

遊びの延長もしくは遊びの最上級的な状態です。

1-8.背側迷走神経と腹側迷走神経の共同作動

作動条件:親密な体験

安心安全な環境下における腹側迷走神経による他者交流と背側迷走神経による身体のスローダウン(≠シャットダウン)が混合した状態で、パートナーとの寄り添いなどがこれに当たります。

恐れなき不動化と言っていいでしょう。

患者さんが治療中に寝落ちするのはこの状態なのかなーなんて思ったり。

2.安全/危険/脅威の認知メカニズム(ニューロセプション)

ニューロセプションとは

環境(他者)が安全/危険/生命への脅威のどれなのか判断し、防衛的・非社会的行動を向社会的に切り替えるシステム

ようは交感神経、背側迷走神経、腹側迷走神経を周囲の環境に応じて”適切に”切り替えるシステムのことです。

※より詳しいメカニズムは脳機能と合わせて解説します。

このニューロセプションは2つのプロセスから成り立っています。

2-1.リスク評価

神経系は休みなく常に周囲の環境(他者)をモニタリングし、安全/危険/生命への脅威のどれに当てはまるのかを検出しています。

これは脳の原始的な部位である皮質下(大脳皮質じゃない部分=本能的)の辺縁部分が行なっています。

=意識には上がってこないし、それゆえに自分では認知できません。

意識レベルでは危険に気づいていなくとも、意識下レベルで体はすでに危険に対しての反応(交感神経)を開始します。

なので動悸、血圧上昇、発汗などの自律神経的な身体変化は自分の意思ではコントロールができないわけです。

 

評価のトリガー(材料)

なによりもまずは相手の腹側迷走神経の体性成分です。
=表情、声の調子(抑揚リズム)、まなざし(視線)、頭部の動きなど
※ちなみに1番重要なのは聴覚情報です。
顔の上部は社会関与の手がかりを示し、下部は防衛的行動の手がかりを示します。

つまり腹側迷走神経の機能を失うと顔の上部の緊張が狂います。

次に内臓感覚からのフィードバックです。

無識的な外部評価の後に起こる身体内部での生理反応に起因する意識的な気づきのことです。

無意識レベルで検知した危険により交感神経が作動し、その作用により心拍数が増加し「あ、私いま緊張している」と気づくってことです。

文章だとイマイチ理解しにくいと思うので絵で説明すると

このように①他者を感じ(無意識)、③自分を感じ(意識)、総合的にリスク評価は行われています。

2-2.作動スイッチ

リスク評価に基づいて神経回路が自動的に適切な行動パターンを起動します。

安全と判断したならば原始的な辺縁系に抑制がかかり、腹側迷走神経を活性化し、社会的関与システム(腹側迷走神経)を作動させます。

3.自律神経障害という言葉の真の意味

よくある間違った認識

腹側迷走神経(社会的関与)=Good
交感神経(可動化)、背側迷走神経(不動化)=Bad

繰り返しになりますが、重要なのは状況に応じて適応することです。

自律神経障害は自律神経そのものが障害されているわけではありませんし、自律神経の機能低下という言い方も厳密には間違っています。

自律神経は周囲の環境に応じてシステム的に作動するだけです。

つまり自律神経障害というのは周囲環境のリスク評価が不正確になっているということです。

リスク評価は自律神経の機能ではありません。

リスク評価を行うのは脳、しかもその中でも皮質下の領域です。(詳しい解説は後述)

ここを勘違いしている人が星の数ほどいます。

自律神経の乱れという言い方も全く同じです。

乱れているのは自律神経じゃなくてお前の自律神経に対する理解だろって言いたくなるけど言いません。(え?

 

不安障害、恐怖症、強迫性障害、抑うつ、境界性パーソナリティ障害、PTSD、反応生愛着障害、自閉症、パニック障害、統合失調症などは基本的にこのリスク評価機能がバグっているせいで安全環境を危険と誤認してしまうことで起こります。

①他者を感じ(無意識)、③自分を感じ(意識)、総合的にリスク評価は行われると説明しました。

リスク評価がバグると脳の感覚情報(無意識レベル)と内臓の感覚情報(意識レベル)のミスマッチ(ズレ)が起こります。

 

そして1番最初に説明したように、危険なのか、脅威なのか、安全なのか、わからないと脳はとりあえず危険と想定しておこうと選択をします。

情報のミスマッチが起こると判断に困り、結果的に交感神経か背側迷走神経が作動し不安障害などが起こるということです。

3-1.防衛反応の適・不適はその持続時間が肝

防衛反応とは生きるためにとるべき反応のことで、ようは3つの自律神経によるその場への最適反応ということです。

ですが主に交感神経と背側迷走神経のことをこの記事では指すと思ってください。(=ストレス反応)

危険なら逃げるか戦うか=交感神経
生命への脅威に対して死んだふり=背側迷走神経

そしてどんなに適切な防衛反応でも長期にわたれば、それは自らを破壊するシステムになりかねません。

爬虫類までの生物は長期にわたっても耐えられるのですが、それ以降の我々のような哺乳類はそうもいきません。
なぜかというと哺乳類はバカでかい大脳をもっており、その大脳の酸素需要はとてつもなく高いです。
脳を車のエンジンと考えた場合、爬虫類までは軽自動車です。
それに対して哺乳類はアメ車、とにかくガソリンを喰います。
長期間の背側迷走神経作動は脳への酸素供給が不足し大脳機能に異常をきたします。

3-2.簡単な疾患理解

不安

交感神経系の活性化 + 腹側迷走神経の制御低下

安全を危険と誤認し、社会関与システムによる制御が崩れ始め、交感神経による支配に切り替わる一歩手前の状態

抑うつ

交感神経と背側迷走神経の同時活性 + 腹側迷走神経の制御低下

不安よりも1段階、背側迷走神経寄りに病理が深まった状態

境界性パーソナリティ障害

腹側迷走神経が作動せず、洞性呼吸性不整脈の振幅が減少、交感神経の活動が高まった状態

特徴的な考えや感情をもち、ものの捉え方や行動の隔りが大きいため、人間関係を円滑に築けない

時に衝動的に自傷行為をしてしまう

PTSD

安全下であっても危険と認知してしまう

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の血中濃度が高まるといっそう危険誤認しやすくなる

反応性愛着障害

5歳までに発症、恐れや過度の警戒、同年代の子どもとの対人交流の乏しさ、自己および他者への攻撃性、成長不全などが特徴

自閉症

乏しい表情、聴覚過敏、発声抑揚の欠落、交感神経システムもしくは背側迷走神経システムの易作動性

多くは過活動な免疫系をもち、消化管感染、炎症、食物アレルギー、喘息、皮膚の炎症を発現する可能性が高い

自閉症児の70%が消化管疾患の既往をもつ(健常児の約2倍)

また胎児期に母親由来の脳を標的とした抗体をもつことで、出産後に脳に炎症を起こしていることが多い

近親姦サバイバー 

即知の危険に反応する細胞の比率が未知の危険に反応する細胞よりも大きくなっている

過去の危険・脅威への反応が消せずにいる状態

→持続的危険反応を抑えるのが困難になる

 

とここまでの疾患は安全を検知できないことに由来するものでしたが、実はその逆パターン(危険を安全と誤認)も存在します。

ウィリアムズ症候群

特徴的な妖精様顔貌、精神発達遅延、心血管病変、乳児期の高Ca血症

腹側迷走神経システムしか作動しない

危険がわからないので誰とでも仲良くしてしまうし、どんな動物にも近寄って触るなどして怪我をすることが非常に多い

 

パニック障害については別の項で取り上げます。

4.凍りつきの理解

4-1.凍りつきの2フェーズ

しっかり勉強している人であれば凍りつきと聞いたら背側迷走神経というワードが出てくると思います。

が、

厳密には凍りつきは背側迷走神経のみ反応ではないんです。

凍りつきと聞くとイメージするのは硬直かと思います。

硬直という言葉から想像される筋肉の状態はおそらく緊張でしょう。

しかし、

背側迷走神経が作動した際の反応はシャットダウンなので筋肉は緊張ではなく過剰弛緩状態です。

ゆえに背側迷走神経による凍りつきは固まっている凍りつきなのではなく、動力不足で動けないことによる凍りつきということになります。 

 

環境(他者)を危険と判断した場合、次のフェーズを経て最終的に背側迷走神経が作動します。

  • フェーズ1
    交感神経と背側迷走神経の混合作動(不動と筋緊張の混合)
    →固まって動けない状態 = まだ抵抗しようとしている
  • フェーズ2
    フェーズ1の状態から交感神経が脱落(シャットダウン)
    →動力カット状態 = 疲弊により抵抗できない

イメージ的にシャットダウンを敗残状態とみなしがちになるのですが、これはむしろ死を回避するための最終防衛反応(死んだふりにより捕食者から放棄される)と考えてください。

また少しややこしいのですが、フェーズとは別に凍りつきにはタイプも存在します。

  • タイプ1
    爆発的行動への準備状態としての凍りつき
    凍りつきとは言え関与しているのは交感神経です
  • タイプ2
    行動の可能性が奪われれた状態としての凍りつき
    こちらは交感神経と背側迷走神経の同時関与です

この2つの凍りつきとは異なる状態の凍りつきとしてシャットダウンが存在します。

例えばこの剣士両名はタイプ1の凍りつき状態と言えます。

両者ともに真剣を手に相手に一太刀を喰らわす準備状態です。

しかし、これは闘争状態なので背側迷走神経ではなく交感神経による凍りつきということになります。

4-2.防衛カスケード

ということで生存するためにという視点で(というか自律神経の根底はそこなんですけどね)危険に直面した際の反応を考えてみましょう。

 

まずは交感神経による闘争逃走反応で対応
(やったるで!状態)
 ↓
対応不可になるとタイプ1の凍りつきが作動
(ポケモンのがまん状態=まだ諦めてないし渾身の一撃に賭けている)
 ↓
対応不可がわかるとタイプ2の凍りつきが作動
(反撃の可能性が奪われて絶望して渾身の一撃のためのチャージができなくなり始める)
 ↓
シャットダウン(完全敗北)

 

こんな順番で防衛反応は起こります。

最初はメラメラ燃えているのですが対応ができなくなると分かると徐々に身体機能が低下していき、最後はシャットダウンを起こします。

動物では死んだふりになりますが、人間に当てはめると失神や虚脱、解離、失禁などになります。

5.脳機能とニューロセプション

ここからはより詳しいニューロセプションの話をします。

環境を安全/危険/生命への脅威と認知する時に何が起こって各自律神経が作動するのかを解説します。

5-1.安全のニューロセプション

環境(他者)を安全と認識し、腹側迷走神経が作動するまでの流れ

なんのこっちゃだと思いますが現時点ではそれで大丈夫です。

5-2.危険のニューロセプション

環境(他者)を危険と認識し、交感神経が作動するまでの流れ

5-3.生命への脅威のニューロセプション

環境(他者)を生命への脅威と認識し、背側迷走神経が作動するまでの流れ

繰り返しになりますが現時点ではなんのこっちゃで問題ありません。

次項から説明する内容が理解できるとこれらの流れが全てスーッと頭に入るようになります。

6.各部の脳機能とニューロセプション

6-1.紡錘状回

顔の認知(人物同定)の中枢

損傷すると相貌失認になり、顔は識別可、表情理解可、しかし誰なのかがわからない状態になる
相貌失認は遺伝性のものが2〜3%に上り、自閉症患者は他者の顔を見た際に紡錘状回を使用せず物体として認知しているそうです。
→オキシトシンを静脈注射すると紡錘状回が使用されるらしい

名称は違いますが赤い下線部のエリアを紡錘状回ということがあります

6-2.上側頭溝

表情認知の中枢

損傷すると顔は識別可、誰なのかもわかる、しかし表情が理解できなくなる

紡錘状回と上側頭溝はニューロセプションの窓口と言えます。

他者の表情、視線の方向や首の動きなど特徴を検出し、その意図を汲み取り、安全と検知すれば皮質延髄路を賦活し、扁桃体を抑制します。

6-3.顔の認知からニューロセプション起動までの流れ

ただし、紡錘状回が人物同定できるのは、そこへ伝わる情報が海馬側頭極(側頭葉の先端部)との回路を経由して記憶と照合されることは忘れてはいけません。

また、上側頭葉が表情認知できるのも、島皮質、扁桃体、前頭前皮質との強い結合によることも忘れてはいけません。

上側頭溝は同時に活性化する脳領域が広範囲にわたるのが特徴であり、他部位との連動の中で表情認知、運動知覚、発話言語処理、メンタライジング(自分や他者の心の状態、感情や欲求、考えなどに気づくこと)、視覚と聴覚の統合などに関与しています。

他部位と連動せずに上側頭溝のみが活性化すると、相手の視線の動きに反応し、特にその方向性(意図性)に強く反応します。

視線とその意図の照合が主な機能のため視線の方向の違いには反応しません。

また表情とその意図の照合も行うのでその動きにも敏感に反応します。

しかしその種類には反応しません。

意図そのものの理解ではなく、意図の有無=意図とその結果の結びつき、あるいは表情の動きとその意図の一致度の照合を行なっています。
笑顔のあとに握手(友好)をするという経験をすれば、笑顔=安全と認知するようになります。

6-4.側頭葉

側頭葉は記憶や聴覚の中枢と考えられがちですが、視覚、聴覚、体性感覚の高次感覚連合野をもっており、多感覚を統合する嗅周皮質海馬傍回をもっています。

  • 嗅周皮質:視覚的な物体の認識・記憶
  • 海馬傍回:物体の空間的な配置の認識・記憶

海馬とその周囲領域(海馬傍回、嗅周皮質、傍海馬皮質、嗅内皮質)が人間を含む霊長類において単一のシステムをなしていてこれを内側側頭葉記憶システムと言います。

側頭葉の感覚情報は1次運動野から発する皮質延髄路に入り込んで腹側迷走神経をじかに作動させます。

腹側迷走神経システム(社会的関与)は皮質にコントロール成分をもっていることになり、安全が検出されると辺縁系による適応的防衛行動を抑制し、前頭・側頭領域のより高次な脳回路の作動を可能にしているということです。

なので緊張すると(前頭・側頭領域のより高次な脳回路の作動が鈍り)頭が真っ白になるというわけです。

逆に危険もしくは生命への脅威が検出されると側頭皮質(紡錘状回、上側頭溝)による抑制が働かず扁桃体の中心核が作動し、そこから密接に繋がっている中脳水道周囲灰白質が刺激されます。

6-5.扁桃体

扁桃体は恐怖情動とそこからの逃避行動を司っています。

ただし単なる恐怖や防衛行動の中枢ではなく、幸せや安全の検出にも関与はしています。

辺縁系の一部なので扁桃体の活動は基本的に意識には上がってきません。

なので危険/生命への脅威はほとんど無意識的に検出されます。

「見た目が全てじゃない!」というのはわかるけど、見た目で危険認識されたら終わりなんですよ。

右側の扁桃体は相手の顔を見て、年齢判断などの別の判断を課されている最中にも同時にその相手が信頼できるかを自動的に判断しています。

これは意識下で起こる反応です。

そして右側の扁桃体(意識下プロセス)は側頭葉(皮質下プロセス)と強く連動し、左の海馬、右の下後頭回に強く出力します。

ようは右の扁桃体で危険人物と判断するとそれが海馬に記憶されるということです。
→右の扁桃体なので意識下(コントロール不可)での話になります。

 

左側の扁桃体は言語刺激にも反応し、実際に脅威がない言葉による脅しにも反応する。

これは言葉の理解(ウェルニッケ中枢=側頭皮質)を経ているので意識上で起こる反応です。

6-6.中脳水道周囲灰白質

扁桃体と密に繋がっており、交感神経もしくは背側迷走神経の作動に関与しています。

活性部位によって闘争、逃走、凍りつきの反応が決まります。

またこの部位への電気刺激は痛覚抑制効果が得られることから痛覚抑制系の中枢とされているそうです。

よく「アドレナリンが出てたから痛み感じなかったわ!」と言いますが、交感神経による興奮は必ず中脳水道周囲灰白質が関与するのでそのおかげで痛覚に抑制がかかっているのかもしれませんね。

※ちなみにぼくは生まれてから一度も「アドレナリンが出てたから痛み感じなかったわ!」と言ったことがありません。小学生のときに初めて聞いたセリフだったのですが、当時どうも頭の悪いセリフに聞こえてしまって…笑

そしてこの中脳水道周囲灰白質による痛覚の抑制には上行性と下行性の2種類があります。

どうでしょうか、理解できましたでしょうか?

こうやって脳の部位ごとの機能がわかると繋がりが見えてきて理解しやすいと思います。

6-7.ニューロセプションまとめ

・危険や生命への脅威環境では皮質レベルのシステムは作動せず、もしくは作動する前に扁桃体〜中脳水道周囲灰白質の皮質下レベルの防衛システムが作動する。

・安全な環境では扁桃体〜中脳水道周囲灰白質の皮質下防衛システムは側頭皮質に抑制される。

7.パニック障害

よくパニック発作という言葉を耳にしますが、病態的には何が起こっているのかをご存知でしょうか?

まだ解明されきっていないので絶対的なことは言えませんが、ぼくの知る限りのことを書いておこうと思います。

7-1.パニック障害と乳酸

パニック障害の患者に乳酸を静注すると80%以上の確率で発作を起こすそうです。

ここから読み取れるのは

乳酸は嫌気性呼吸の産物なので、無酸素状態を意味します。
つまりパニック発作は体が低酸素状態を誤認した結果として過呼吸や頻脈を起こしていると考えられます。

発作時の症状を調べてみると

  • 動悸・心拍数の増加
  • 発汗
  • からだの震え
  • 息切れ感または息苦しさ
  • 窒息しそうな感覚
  • 胸痛または胸部不快感
  • 吐き気または腹部の不快感
  • めまい、ふらつく感じ、気が遠くなる感じ

などが出てきます。

これらのうち多くが低酸素状態への対応の結果と言われると腑に落ちる気がしなくもないです。

 

また乳酸はセロトニン再吸収を促進し、不安反応を活性化させます。

例えば怖い顔の男性を見た際に発作が起こると、その顔と発作というイベントは繋がりをもち扁桃体や海馬によって記憶に定着します。
なので再度怖いと感じる男性の顔を見ると扁桃体と海馬の活性により発作が引き起こされます。

たまにパニック発作は疲労の蓄積によって引き起こされるということも聞きますが、これは乳酸=疲労物質という認識だからなのかもしれません。

しかし乳酸は疲労物質ではないと言われてもう久しいです。

乳酸の生成過程で水素イオンが生じるのですが、この水素イオン濃度が高まるとpHが酸性に傾き疲労を感じるんですよね。

なのでやはりパニック発作は疲労蓄積ではなく、低酸素状態の誤認だとぼくは理解しています。

大学で精神疾患を研究している方とお話する機会があったのですが、どうやらパニック発作は初発と再発ではメカニズムが違うみたいです。

初発は低酸素の誤認が主なトリガーになるのですが、その経験が海馬に記憶されるとで再発は初発時の恐怖に似た環境もトリガーになるそうです。

例えば子供のころに食事の度、親から怒鳴れていた経験があったりすると脳内で食事×大声×恐怖の結びつきが形成されます。

大人になって賑やかな大衆酒場などで、食事×大声がトリガーになり恐怖が想起され、怒られているわけでもないのに発作を起こす。

といった具合です。

8.環境誤認で起きていること

ニューロセプションのミスマッチで起きていることを説明します。

安全を危険と誤認

扁桃体の機能亢進

不安障害、恐怖症、強迫性障害、抑うつ、適応障害、PTSD、反応性愛着障害、自閉症、パニック障害、統合失調症

危険を安全と誤認

扁桃体の機能低下

ウィリアムズ症候群

8-1.疾患と扁桃体

各疾患ごとに扁桃体にどんな構造的変化が現れるのかを調べてみました。

恐怖症、パニック障害、PTSD、強迫性障害

→機能亢進と容積増大

またPTSDでは海馬の機能亢進も見られ樹状突起が萎縮、扁桃体も同様に機能亢進が度を超えると容積が減少するそうです。

アロスタティック負荷
機能亢進による生理的な変化はまず容積が増大し、次第に減少する(消耗)

自閉症

幼少期は扁桃体は容積増大を示すが成人期には減少

 

 

これらから言えることは扁桃体がニューロセプション駆動のキーになる部位で、扁桃体の働きをうまく抑制することが腹側迷走神経作動のための条件ということです。

ただし、少しややこしいのですが、扁桃体の機能低下(恐怖を感じなくなる)は過剰な社会性とも解釈できるので、腹側迷走神経にブレーキをかけるという視点で見ると扁桃体は腹側迷走神経の適切な作動に関与しているとも言えるかもしれません。(あぁややこしい)

9.臨床への活用

さて、ここまで色々と解説してきましたが、これらの内容をどう臨床に活用するかを考えてほしいと思います。

ざっと整理してみると

  • 予測可能性は安全感覚を与える
  • 環境(他者)が安全か危険か生命への脅威なのかの第1判断は主に扁桃体と海馬で行われている。
  • 扁桃体が読み取った情報を海馬に蓄積している過去の情報と照合してその判断をしている。
  • そしてその判断は意識下レベルでの反応なので認知はおろかコントロールもできない。
  • ただし紡錘状回や上側頭溝も関与しており、それらが安全と判断すると扁桃体の活動を抑制してくれる。
  • 扁桃体が抑制され腹側迷走神経が作動する。

みたいな感じでしたよね。(理解追いついてますか?)

 

ぼくが代表をしているオンラインサロン臨床家の学校 集-tsudoi-では過去にこんな質問が出ました。

「緊張して力の抜けない患者さんが来た時にどうしたらいいのか分からず困っています。皆さんはどうされてますか?」

これに対して確信を突いた回答が運営陣からではなく会員さんから出ました。

「寝かせたらいいと思います。」

笑っちゃいますよね。

治療を受けに来ているのに寝かせてしまえなんて。笑

でもここまでの内容を理解している人なら分かりますよね。

我々治療者の目の前で患者さんが寝落ちするということは、患者さんが安心しているからこそ起こること。

 

施術による寝落ちはリラックス効果の最上級だとぼくは考えています。

リラックス…腹側迷走神経ですよね。

つまり扁桃体の活動は抑制されているということです。

臨床活用方法の1つとして施術によるリラックスは大アリでしょうね。

 

他にも施術以外に患者さんの扁桃体を少しでも抑制するために出来ることはあります。

予測可能性の提供です。

  • スタッフの顔写真や話し声が分かる動画
  • 院内で患者さんが目にする場所の写真
  • 施術内容のわかる写真や動画
  • 入店から退店までのすごく細かな流れ(スリッパ履いてください〜気を付けてお帰りくださいまで)

これらをHPなどに掲載することは予測可能性の提供になります。

初めて来る場所は未知の嵐です。

事前に見せて予習してもらうことで実際に来院された時に「あぁこれHPで見たやつと同じだ、そうすると次はおそらく…」としたいですよね。

これが「どうしたらいいの?次は何がくるの?」という状態だと安心よりは不安や緊張が強まってしまうと思います。

 

初めての治療院で予想以上に強面で、体デカくて、声も暗いトーンのスタッフが出てきたらどうですか?笑

何となく扁桃体が反応強まりそうな気しません?

 

HPに写真をやたら載せたり、スリッパ履く指示すらいちいち出したり、ぼくはそこまでやらないといけないのかと正直疑問だったんです。

でも予測可能性の提供で患者さんが安心感覚を得て、結果的に信頼してもらえる(扁桃体の活動を少しでも抑えられそう)と理解してからはむしろやるべきことだと思うようになりました。

 

なんとなくあそこのお店は居心地がいい

 

こんなお店ってありますよね。

扁桃体は無意識レベルで活動するのでこの”なんとなく”という感覚は正しいのかなと思います。

10.さいごに

腹側迷走神経は哺乳類にしか備わっていない神経システムです。

こう聞くと優れた機能であると感じます。

しかし、腹側迷走神経の作動条件をちょっと違った解釈にするとそうとも思えなくなってきます。

腹側迷走神経の作動条件は安全な環境に身を置くことでした。

この安全を少し変換してみると、危険が一時的に低下した状態と言えませんか?

と、するならばですよ、腹側迷走神経も交感神経や背側迷走神経と同じ防衛反応の1つとして捉えられなくもないんですよね。

アメリカではすれ違う人と気軽に笑顔で挨拶をしますよね。

あれって自分は敵ではないことを提示しているんですよ。

なぜかって、アメリカは銃社会ですから。

敵と見なされれば撃たれてしまう可能性があるわけです。(=死)

死という恐怖に対しての予防的防衛行動としての挨拶(社会関与)と考えるとなんとも本末転倒というか、不器用というか…

ということでここまで読んでしまった変わり者のあなた、ぜひレビューの投稿をお願いします。

でないとぼくの扁桃体があなたを危険と認識してしまいそうです…

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考および引用書籍・サイト

集-tsudoi-のブログでは以下のリストを参考もしくは引用しています。

書籍

サイト

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